エジプト神話:死者の神アヌビスの物語

アヌビスって、なに者?

タケル「なあミコ、エジプト神話で“アヌビス”っているじゃん? あの犬みたいな顔のやつ。あいつ、結局なんなの?」

ミコ「ジャッカルの顔をした神ね。アヌビスは死者の神で、ミイラ作りとか死後の世界の案内役って言われてるの。でも、実はその役目になるまでに色々あったみたいよ」

タケル「へえ、なんか深そうだな。久遠先生、アヌビスって、どういう神様なの?」

久遠先生「アヌビスはね、エジプト神話の中でとても重要な存在。最初は冥界の王だったけれど、のちにオシリスがその役割を引き継いでいったの。アヌビスは今でも“ミイラ作りの神”とか“死者の守護神”として知られているけれど、もともとはもっと主役級の神だったのよ」

ミコ「それって、役目を“降格”されたってこと?」

久遠先生「一見そう聞こえるけれど、実はそうとも限らないの。むしろ、アヌビスが担う“死者の審判”や“心臓の計量”の役目って、エジプト人にとってはものすごく大事なことだったの」

タケル「“心臓の計量”? 何それ?」


死者の審判と“真実の羽”の謎

久遠先生「エジプトではね、人が死ぬと“冥界の裁判”を受けるって信じられていたの。そのとき、アヌビスが天秤を持って現れて、死者の心臓と“マアトの羽”を量るの」

ミコ「“マアト”って、あれでしょ。正義とか真実を意味する女神!」

タケル「へえ、それで心臓の重さを量るのか。でも、どうやって善人か悪人かを判断するの?」

久遠先生「エジプト人は“心臓”がその人の記憶や行動を全部覚えているって考えていたの。だから、心臓が重ければ重いほど悪事を重ねたってことになって、天秤が傾くとアウト」

ミコ「アウトって……どうなるの?」

久遠先生「“アメミット”という怪物に心臓を食べられて、魂は永遠に消滅するの。生まれ変わることもできない、完全な消滅よ」

タケル「うわっ、それ怖っ……! オレ、ちょっといいことしようかな……」

ミコ「単純すぎる(笑)」

アヌビスの出生に隠されたドラマ

タケル「ところでアヌビスって、オシリスとかイシスの仲間なんでしょ? どういう関係なんだ?」

久遠先生「それがね、ちょっと複雑なの。アヌビスは、オシリスとネフティスの間に生まれた子なの」

ミコ「ネフティスって、イシスの妹じゃなかった?」

久遠先生「そう。そしてネフティスは本来、セトの妻。でもセトは暴力的で冷たい神だったから、ネフティスはオシリスに惹かれて、こっそり関係を持ったの。そこで生まれたのがアヌビスなのよ」

タケル「え、それって……浮気じゃん」

ミコ「神話にはよくあるパターンよ。でも、ネフティスはアヌビスをセトに見つからないように捨てちゃうの」

久遠先生「そう、そしてそれを見つけて育てたのがイシス。だからアヌビスはイシスに育てられた“義理の子”として忠誠を誓うようになるの」

タケル「なんか急にドラマチックになってきたな……」

ミコ「神話の中で生まれの秘密って、すごく重要なのよね」

ミイラ作りとアヌビスの重要性

タケル「アヌビスってミイラ作りの神でもあるって言ってたけど、そんなに大事な仕事なの?」

久遠先生「とても大事よ。古代エジプト人は“死後の世界”で生き続けるためには、体を残しておかないといけないと考えていたの。だから死者を丁寧にミイラにして、魂が戻ってこれるようにしたの」

ミコ「そのときに唱えられる呪文とか儀式の中にも、アヌビスの名前っていっぱい出てくるよね」

久遠先生「そう。“アヌビスよ、この者を清めたまえ”とか、“アヌビスがこの体を守護せんことを”というような言葉が儀式の中にたくさん入っているの」

タケル「でも、ミイラって怖いよなあ……。夜中に歩いてきそう」

ミコ「それ、映画の見すぎ(笑)」

久遠先生「それもアヌビスが“死者は眠るものであって、甦ってくるものじゃない”という役割を持っていたからかもね」

アヌビスとギリシャ神話の“融合”

ミコ「そういえば、アヌビスって後の時代に“ヘルメス”と一緒にされてたんでしょ?」

久遠先生「その通り。ヘレニズム時代には、アヌビスとギリシャ神話の神ヘルメスが合体して“ヘルマヌビス”という神が生まれたの」

タケル「合体って、なんで?」

久遠先生「ヘルメスもまた“死者の魂を冥界に案内する神”だったから、同じ役割のアヌビスと重ねられたのね。宗教や神話って、時代が進むと混ざっていくのよ」

ミコ「それって、面白いけどちょっと不思議な感覚……」

タケル「神様って、絶対じゃないのか。変わっていくんだな」

久遠先生「そう。人の考えや時代が変われば、神々の意味も役割も変わっていくの。アヌビスもその象徴のひとつね」

アヌビス像の“なぜジャッカル”か問題

タケル「でもさ、なんでジャッカルの顔なの? 他にも犬とか猫とかいるじゃん」

久遠先生「いい質問。ジャッカルはもともと墓地の近くをうろつく動物だったの。だからエジプト人にとっては“死者の近くにいる存在”だったのね」

ミコ「それでアヌビスが“死を見守る神”としてジャッカルの顔になったのね」

久遠先生「そう。姿には意味があるの。アヌビスの黒い体も、“死と再生”の象徴とされる黒い土“ナイルの土”と関係があるのよ」

タケル「なるほど。ちゃんと理由があるんだな」

現代におけるアヌビスの人気と神秘性

ミコ「最近だと、ゲームとか映画にもアヌビスってよく出てくるよね。ちょっと悪役っぽくされたり」

タケル「『遊☆戯☆王』とか、『アサシンクリード』とかにも出てた気がする」

久遠先生「そうね。アヌビスのビジュアルはインパクトが強いし、神秘的な雰囲気があるから、現代でも人気なの」

ミコ「でも、本当のアヌビスって、“悪”じゃないもんね」

久遠先生「むしろ正義を守る神なの。死者の魂がちゃんと旅立てるように、悪い心を見抜いて、魂の世界を整えているのよ」

タケル「なんか、オレ、アヌビスのこと見直したかも。死んだ人のこと、ちゃんと考えてくれてるって、カッコイイじゃん」

ミコ「アヌビスは“あの世の正義”を守る神なのよね」

最後に:アヌビスが教えてくれること

久遠先生「アヌビスが大事にしているのは、“生きていた時にどう生きたか”ということ。それが死後の世界での運命を決めると考えられていたの」

タケル「オレ、もうちょっと人に優しくして生きようかな……」

ミコ「いきなりどうしたの(笑)」

久遠先生「冗談みたいに聞こえるかもしれないけれど、“心臓が軽い生き方”って、今の時代にも大事だと思うわよ」

タケル「軽い心って、ちゃんと生きるってことか……」

ミコ「アヌビスって、やっぱり奥が深いね」

久遠先生「そうね。神話は、ただの空想じゃないの。人の生き方や考え方が詰まっているの。だから面白いのよ」

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