ギリシャ神話:パンドラと『箱』の物語
パンドラって、なにが「最初の女」なの?
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タケル「なあミコ、ギリシャ神話でさ、パンドラって女が“箱を開けて人間に災いをもたらした”って話、なんか悪役っぽくない?」
ミコ「うん、でもちょっと不思議じゃない? ただ箱を開けただけで、世界に不幸がばらまかれたって……それに“希望”だけが残ったって話も、意味深だよね」
タケル「希望だけが残るって、いい話っぽいけど、逆に怖い気もするんだよな……で、結局パンドラって何者なの?神様じゃないんでしょ?」
久遠先生「いい質問ね。パンドラは、ギリシャ神話の中で“最初の人間の女性”として登場するのよ。ゼウスたちオリンポスの神々によって造られた存在なの」
タケル「最初の女?アダムとイブの“イブ”みたいなもん?」
久遠先生「そう言ってもいいわね。ゼウスが、プロメテウスという神が人間に火を与えたことに怒って、仕返しとして作った存在がパンドラなのよ」
ミコ「じゃあ、罰のために女を作ったってこと……?ひどくない?」
久遠先生「古代ギリシャの社会的価値観が反映されているともいえるわ。女性が“災いをもたらす存在”と見なされたのは、時代背景も関係しているの」
タケル「オレはそういう考え、好きじゃないけどな。っていうか、どういう仕返しだったんだよ?」
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神々の“作品”としてのパンドラ
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久遠先生「ゼウスはまず、火を盗んだプロメテウスに対して直接罰を与えるだけでなく、人間にも苦しみを与えることを考えたの。そこで、鍛冶の神ヘーパイストスに命じて、粘土からとても美しい女性を作らせた。それがパンドラ」
ミコ「外見だけじゃなくて、中身にも何か細工されてるの?」
久遠先生「そう。知恵の女神アテナからは手仕事の才能、愛と美の女神アフロディテからは魅力、そしてヘルメスからは“嘘やごまかし”の才能を与えられたの」
タケル「つまり……うわ、なんか性格悪くするためのセットじゃん」
久遠先生「まあ、神々が“人間を惑わせる存在”として作ったわけだからね。そして、彼女に“絶対に開けてはいけない箱”――実は壺なのだけど、それを持たせて人間界へ送ったの」
ミコ「あっ、それがいわゆる“パンドラの箱”ってことね」
タケル「で、中身が災いってワケか。けどさ、なんでゼウスはそんな回りくどいやり方したんだよ?」
久遠先生「ギリシャ神話の神々って、人間みたいに感情に左右されるところがあるのよ。ゼウスは自分の権威を脅かされたと感じた時、感情的になる。プロメテウスが火を与えたことで、人間が神に近づきすぎることを恐れたの」
ミコ「それにしても、箱を開けただけで世界が不幸になるなんて……パンドラって、そんなに悪いことしたのかな」
久遠先生「実はそこが、現代での解釈の分かれ目なのよ」
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“開けること”の意味とは?
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タケル「なあ、そもそもパンドラって“開けるな”って言われてたのに、なんで開けたんだ?好奇心?」
久遠先生「その通り。彼女は神々によって“好奇心”も植え付けられていたの。つまり、開けるように仕向けられてたとも言えるわね」
ミコ「ええ……なんか可哀想。もともと災いを起こすようにデザインされてたなんて」
久遠先生「パンドラの行動は“人間らしさ”の象徴ともいえるの。善悪だけでは判断できないのよ。人間は好奇心があるからこそ成長もするし、間違いも犯す」
タケル「うーん、でも災いをばらまいたなら、やっぱ悪いことじゃないの?」
久遠先生「確かに“直接的な結果”だけ見ればそうだけど、彼女の行動が“自由意志の発露”と解釈されることもあるの。古代の文献をもとに再解釈すると、彼女は悲劇のヒロインとして見ることもできるわ」
ミコ「つまり……パンドラって、善と悪のどっちにも属さない“人間の原型”ってこと?」
久遠先生「そう。古代ギリシャの人々が、“人間とは何か”を考えるために生み出したキャラクターだったのね」
タケル「うわー、深いな……ただの“やらかし系美少女”じゃなかったんだな」
ミコ「やらかし系って……表現がひどい」
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“希望”とは救いか、それとも……?
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タケル「そういやさ、最後に“希望”だけが箱に残ったって話、あれってどういう意味なんだ?」
久遠先生「これもいろんな解釈があるのよ。希望が“人間の心の救い”として残ったという見方もあるし、“災いの一つ”として箱に封印されたという逆の解釈もあるの」
ミコ「ええ? 希望が災い?」
久遠先生「希望って、未来に対する期待や願いでしょう?でも、それが実現しなければ苦しみにもなる。だから、“期待しても叶わないもの”として、希望も災いに近い存在だという考え方があるの」
タケル「たしかに……期待しても報われなかったら、余計キツいもんな」
ミコ「でも希望がなかったら、人間ってやっていけない気がする」
久遠先生「その通り。だから“希望”が残ったのは、神々が人間に“耐え抜く力”を与えたという希望的なメッセージでもあるの」
タケル「結局、パンドラの箱の意味って、“人間は苦しいけど、それでも生きる力がある”ってことか?」
久遠先生「その解釈はとても現代的ね。実際、今の心理学や哲学でも、パンドラの物語は“逆境の中での希望”の象徴として語られているわ」
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名前の意味と、現代文化とのつながり
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ミコ「そういえば、パンドラって名前に意味あるの?」
久遠先生「“すべてを贈られた者”っていう意味よ。神々から様々な才能や性質を“贈られた”存在だったの」
タケル「すべて……ね。逆に言えば“すべての問題のもと”でもあるな」
久遠先生「そういう皮肉な捉え方もできるわね。でも現代では、パンドラの名前はよく使われているでしょう?」
ミコ「うん、“パンドラの箱”って言い回しもそうだし、ネットとかでも“Pandora”って名前のサービスあるよね」
久遠先生「そう。未知のもの、開けてはいけないけれど魅力的なもの、というイメージでパンドラの名前は今も活かされているの。例えばSFやファンタジー作品で、パンドラの箱は“封印された禁断の力”として登場することもある」
タケル「たしかに!ゲームでも“パンドラの剣”とか“パンドラ・システム”とか出てくるわ。ヤバいアイテムの代名詞って感じ」
ミコ「でもそれって、本質的には“パンドラ=禁忌を開いた者”って意味で使われてるってことだよね」
久遠先生「ええ。そしてそれは、人間の“知りたい欲”と“恐れる心”のバランスをどう取るかという、永遠のテーマにつながっているの」
タケル「……オレ、思ったんだけどさ、結局人間って、災いがあっても前に進むしかないってことだな」
ミコ「そうだね。希望が“災いとともにある”からこそ、人間らしいのかもしれない」
久遠先生「ふふ、よくわかってきたわね。それが、パンドラの物語が何千年も語り継がれてきた理由なのよ」
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パンドラの物語が残したメッセージ
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ミコ「こうして見ると、パンドラの物語って、単なる“災いのはじまり”じゃなくて、“人間のはじまり”なんだね」
久遠先生「そのとおり。人間が“善と悪”“好奇心と恐れ”“苦しみと希望”の中でどう生きるか、その本質を描いた物語なの」
タケル「でもオレ、ちょっと怖くなったな。だって“開けちゃいけないもの”って、今もある気がする」
久遠先生「ええ、現代の技術や科学でも、似たような状況があるわよ。例えば、AIや遺伝子操作、核技術……」
ミコ「まさに“現代のパンドラの箱”ってことか……」
久遠先生「だからこそ、パンドラの物語は“開けるかどうか”だけじゃなく、“開けたあと、どうするか”を問いかけているのよ」
タケル「うーん……オレだったら絶対に開けない!……たぶん」
ミコ「タケルは好奇心強いから、三日後には絶対開けてるよ」
久遠先生「ふふふ、そうやって悩んで考えることが、人間らしいってことなのね」
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