古典『源氏物語』:六条御息所の物語
六条御息所って、どんな人?
タケル「先生、六条御息所って名前だけは聞いたことあるけど、どんな人なのか全然イメージ湧かないんだけど。」
ミコ「私、ちょっとだけ知ってるよ。源氏物語に出てくる、ちょっと怖い女の人じゃなかった?」
久遠先生「よく知ってるわね、ミコ。六条御息所は、源氏物語に登場する女性の中でも特に印象的なキャラクターなの。彼女はとても気品があって教養もある女性だったのよ。もともとは高貴な家柄の出で、前の帝の妃だった人。だから“御息所(みやすどころ)”って呼ばれるのね。」
タケル「え、じゃあめっちゃ偉い人じゃん。でも何で“怖い”とか言われるわけ?」
久遠先生「それはね、彼女が物語の中で“生霊(いきりょう)”として現れてしまうからなのよ。」
ミコ「生霊!やっぱりオカルトっぽい話だ!」
タケル「人が生きてるうちに霊になるの?それ、マジで怖いやつじゃん。」
久遠先生「でもね、それには彼女の深い苦しみと背景があるの。簡単に“怖い”だけでは片付けられないのよ。」
恋心とプライドのはざまで
ミコ「六条御息所って源氏のこと、好きだったんだよね?」
久遠先生「ええ、源氏のことを深く愛していたの。でも彼女には高いプライドがあったし、自分が若い光源氏の“恋人の一人”という扱いにしかされないことが耐えられなかったのね。」
タケル「ってことは、源氏は他にも女の人いたってこと?」
久遠先生「そうよ。源氏はたくさんの女性と関係を持っていたの。恋多き美男子として有名だったのね。その中でも六条御息所は特別な存在だったんだけど、それでも彼女の気持ちに十分に応えてくれるような愛は返ってこなかったの。」
ミコ「そういうの、つらいよね…。愛してるのに、ちゃんと愛してもらえないって…。」
タケル「でも、だからって生霊になっちゃうって、どれだけヤバい執念なんだよ。」
久遠先生「“執念”というより、“絶望”と“孤独”かもしれないわね。自分の感情をどこにも出せず、苦しみが心の中にどんどん積もっていって…とうとう彼女の魂が、無意識のうちに体から離れてしまうの。」
ミコ「それって、心の病みたいな感じかな?」
久遠先生「近いかもしれないわね。現代でいえば、誰にも理解されず、孤独で、愛されることを求め続けて壊れてしまったような、そんな存在なの。」
生霊が引き起こす悲劇
タケル「でさ、六条御息所の生霊って、何したの?」
久遠先生「一番有名なのは、“夕顔”の事件ね。源氏が他の女性――夕顔という若い女性に心を奪われていたとき、六条御息所の生霊が現れて、夕顔を殺してしまうの。」
タケル「ええ!?怖っ…やばいじゃん、それ。」
ミコ「私、その話知ってるかも。夕顔って、源氏と一緒に隠れて泊まってたときに、急に苦しんで死んじゃうんだよね。で、夢にすごい女の人の霊が出てきたって…。」
久遠先生「その霊こそが、六条御息所の生霊だったとされているの。もちろん、物語の中で明言されてはいないけれど、状況的にそうとしか考えられないのよね。」
タケル「つまり、自分でも気づかないうちに嫉妬とか怒りが爆発して、生霊になってたってことか。」
久遠先生「ええ。それが六条御息所の悲しさでもあるの。自分の手で何かをしたわけじゃないのに、自分の“想い”が人を傷つけてしまうなんて、想像してみて。彼女自身も、その罪悪感に苦しむのよ。」
ミコ「愛したのに、愛されなかった。それが生霊になるほどの痛みになっちゃったって、すごく悲しいね。」
葵上との対立とさらなる苦悩
タケル「夕顔の他にも、生霊出ちゃうの?」
久遠先生「そう。次は“葵上”という源氏の正妻に対しても生霊として現れるの。源氏が葵上との関係を深める中で、六条御息所はますます孤独と嫉妬に苦しむようになるのよ。」
ミコ「葵上って、おっとりした人だったんじゃないの?」
久遠先生「性格的にはそうだけど、立場は六条御息所よりも上だったの。源氏の正妻として、堂々とした存在だったわ。」
タケル「なるほど、正妻に勝てないのって…プライド傷つくな。」
久遠先生「その通りね。六条御息所は、源氏の“恋人の一人”という位置に甘んじることができなかったの。自分は前の帝の妃で、教養もあるし気品もあるのに、なぜ自分が蔑ろにされなきゃいけないのか――そんな思いが彼女の心をさらに重くしていったのよ。」
ミコ「それで、葵上にも生霊として取り憑いちゃうんだ…。」
久遠先生「ええ。葵上は六条御息所の生霊に取り憑かれ、やがて亡くなってしまうの。」
タケル「マジかよ…二人も…。」
久遠先生「それが彼女の恐ろしさでもあり、同時に哀しさでもあるの。彼女は、“愛されなかった女性”として、心の中に渦巻く感情を抑えきれず、生霊として二人の女性を死に追いやってしまった。」
出家と静寂の中での贖罪
ミコ「六条御息所って、そのあとどうなるの?」
久遠先生「彼女は自分の行いを悔やんで、出家して仏の道に入るのよ。自分の中にある執着や嫉妬を手放そうとするのね。」
タケル「それって、ちょっと救いがある話だな。反省して終わるっていうか。」
久遠先生「そう思えるなら、物語はきっとあなたに何かを伝えているのかもしれないわね。」
ミコ「でも先生、生霊になるぐらいの想いって、やっぱり愛が深かったってことなんだよね?」
久遠先生「そう。だからこそ、六条御息所は“怖い女”ではなく、“苦しんだ女”として見る必要があるの。自分の感情に正直に生きたからこそ、心が壊れてしまった。そこに、女性としての生きづらさや、社会の不平等も見えてくると思うわ。」
六条御息所は“悪女”ではない
タケル「なんか、話聞いてたら悪者じゃない気がしてきたな。」
ミコ「むしろ、かわいそうだよね。感情が強すぎただけで…。」
久遠先生「その通り。昔は彼女のことを“嫉妬深い女”とか“恐ろしい女”っていう見方が多かったけれど、最近では“繊細で傷つきやすい心を持った女性”というふうに理解されるようになってきてるのよ。」
タケル「時代によって見方が変わるんだな。」
ミコ「現代の恋愛でもあるよね。LINEの返事が来なくて不安になって、相手のSNSをずっと見ちゃうとか…」
久遠先生「ええ、そういう感情って、今も昔も変わらないのよ。だから、六条御息所の物語は今の人の心にも響くのかもしれないわね。」
“愛”と“孤独”の物語としての六条御息所
タケル「じゃあ先生、六条御息所って結局、どんな人だったって言えるの?」
久遠先生「一言で言うなら、“深く愛したけれど、報われなかった女性”かしら。そしてその愛の苦しさに押しつぶされてしまった人なの。だけど、その姿に私たちは共感してしまうのよね。だって、人を本気で好きになったことがあるなら、その苦しさもわかるはずでしょう?」
ミコ「うん…それ、すごくわかる気がする…。」
タケル「俺はまだわかんないけど、そういう気持ちになることって、きっとあるんだろうな。」
久遠先生「六条御息所の話を読むことで、“愛すること”と“自分自身をどう保つか”を学べるのかもしれないわね。」
ミコ「また読み返したくなってきた。次は六条御息所の目線で見てみたいな。」
久遠先生「それが“古典を読む”ということなの。何度も読むたびに、違う世界が見えてくるのよ。」
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